親族内承継

子や子の配偶者、甥姪などの親族に社長を交代し、株式を承継して事業を引き継ぐことを親族内承継と言います。

私たちの調査(※)で、後継者又は後継者候補がいると回答した79.1%の社長たちのうち、79.3%が親族内承継(「実子68%」「その他の親族11.3%」)でした。
しかし、そのうち社長交代時期が決まっているのは僅かに5%でした。
「決まっていない」が55.5%、「時期は未定だが希望・予定はある」が33.1%でした。

つまり、この結果から、中小企業の事業承継の大半が親族内承継であることと、この調査対象の社長平均年齢が70.8歳であることと考え合わせると、
その決まっているはずの後継者への社長交代がなかなか進まないということがわかります。

親族内承継のメリットと留意点

メリット
  • 実子であれば、生来の性格や行動特性を知っているのでリーダーとしての資質や可能性を理解しやすい
  • 社内の役員や古参幹部社員の信任と協力を求めやすい
  • 取引先や金融機関の理解と協力を得やすい
  • 後継者が家族や一族に対する強い責任感と覚悟を持つ
  • 後継者が社長に対して率直に踏み込んだ意見や提案ができる
  • 社長は子や親族であることへの安心感が得られて引退の気持ちの踏ん切りがつけやすい
留意点
  • 情が入りすぎて後継者としての資質能力を的確に評価できなかったり、冷静に教育指導できなかったりすることがある
  • 後継者の承継会社におけるキャリアが少なく、社長や古参幹部との過去の共通体験が乏しいために、現状認識がかみ合わないことがある
  • 強い責任感と功を急ぐ気持ちが焦りや気負いとなって、既存の組織メンバーとの摩擦を起こすことがある
  • 親子や親戚であることで感情的に対立したり、コミュニケーションが疎遠になったりして、会話の量や深さが足りなくなることがある
  • 古参・生え抜きの社員の嫉妬や競争心が生まれることがある
  • 株主や役員等に親族関係者が多い場合には、それぞれの思いや利害が一致せず承継に支障をきたすことがある
  • 親としての心配や不安が先立ち、なかなか子に経営を任せきることができないことがある

※しんきん支援ネットワーク事業承継実態調査

11の信用金庫のうち7つの信用金庫が平成29年9月~平成30年8月にかけて、社長の年齢が65歳以上の2,013社の取引企業(平均年齢70.8歳)に対して個別インタビュー方式による調査を行った。

親族内承継のポイント

■ 家族コミュニケーションは難しい?!

家族間のコミュニケーション、特に父と子のコミュニケーションで難しさを感じているケースは大変に多く、それが親族内承継の本質的問題のひとつです。

ちょうど子供の思春期の頃に経営者として必死になっていた父親は、家族としての関係性が未熟なことがあります。それが遠慮になったり、逆に無遠慮になったりして、滑らかに会話ができないという状況を作ります。

親子などの近い関係ならではの「そのくらい、言わなくてもわかっているだろう」という甘えや思い込みは、肝心なことが伝わらない原因のひとつです。大切なことは「話すと聴くのバランス」であり、そこにある違いを認め合い発展させ承認や励ましを与えあうことが、家族本来のコミュニケーションです。

■ 事業承継の計画を立てよう!

親族内承継は、社内承継やM&Aと比べて事業と会社に対する愛情や責任が、たしかに受け継がれていきます。しかし、現社長の強すぎる責任感と親子の情(苦労させたくない、困難を取り除いてあげたい…など)によって引き継ぐことの不安を拭うことはできず、そのために社長交代時期がどんどん後ろに延びていきます。

加えて、親族内承継は株式など財産承継の問題もあってより複雑です。親族関係者の思いや利害の調整、経営財務の今後の課題取組や目標・計画、役員社員の年齢や次の管理体制、そして、株式などの相続や贈与など異なる性質の事柄が複雑に絡み合うからこそ、しっかりとした事業承継計画を作ることが必要です。

■ 計画的な事業承継の基本は株式贈与

事業承継計画の中で、特に代表者交代のスケジュールと合わせて株式承継の時期や方法を考えます。
それがないのに株価を計算し、将来の贈与税や相続税額の負担ばかりを嘆いていても何も進みません。

引き継ぎの時期が来る前に、概算ではなく正確な株価評価計算を行い、あらかじめ株式を承継に際して生じる問題や課題を理解し、その手法や対策を検討しておくことが有効です。事業承継を計画的に進めるには、株価を知るだけでは意味がありません。自社の株価を高めている要因や、株価引下げ策の可能性、難易度の把握、株式の承継(贈与、相続、譲渡)の課題を明らかにすることが大切です。株価は将来の戦略や経営成果、株式承継の時期や方法等によって変化しますので、会社に固有の問題点や課題を理解して事業承継計画に反映させていきます。

親族内承継へのプロセス
Step1.
親族内承継への準備
(1)機会を与え育つ環境におく
  • 他社に優っている業務部門や経営に比較的影響の大きな重要業務を担わせる
  • 次世代の経営目標や戦略、年度目標や予算策定について責任を担わせる
  • 経営判断に関わる事柄に計画的に参加させて意見交換や議論を図り、見識を深める場に同行し体験共有を進める
(2)代表者交代の時期を決める
  • 経営に関わる同族関係者と特定の幹部社員に理解と協力を求める
  • 代表者交代の時期と方法や手順スケジュールを決定して社内外に公表する
(3)経営の課題取組と次世代に向けた基盤を固める
  • 経営理念や事業基本方針の再確認
  • 現幹部の理解と協力の取り付け、チームワークの強化
Step2.
事業承継計画の
必要性とポイント
  • 代表者交代までの経営課題や具体的な取り組み、その後の中期的な戦略や計画、投資、売上や利益目標、組織規模など
  • 現状から10年先までの社長、後継者、他の幹部役員幹部(候補を含む)の職務・職位、年齢・キャリア年数、給与等処遇
  • 株主構成、後継者への株式承継の時期や数、方法、株価対策

ポイントについて詳しくは下記のページをご覧ください。

つなぐ未来プランニング「たくす」

Step3.
事業承継計画の実行
  • 後継者を代表者に就任させる
  • 社長は代表を辞任、または役員を退任し経営に関する権限を全面委譲
  • 株式等に関する承継計画の実行